H-Marketモデル: 経済格差の解決と成長のための市場モデル
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H-Marketモデル: 経済格差の解決と成長ための市場モデルの概要

平野 聡 工学博士

ピース・アンド・パッション
東京大学生産技術研究所リサーチ・フェロー

2022/8/20-

H-Marketモデル(Hirano Market Model)は経済格差問題の解決を目指す市場モデル(仮説)です。購入者は今までより安く買えて、多くの販売者は今までと同じ価格でも売上が増える性質を持ちます。「検索結果のクリック率がべき乗則であるために経済格差問題が深刻化している」という洞察から、需要に対して、ランキング下位も含む複数の販売者(供給)を、重み付きの確率を加味してマッチングします。また、価格の叩き合いによるデフレーションを防ぐためにマッチングと2重オークションを行います。低中所得層の所得を増やすことで地域経済を活性化し、高所得層の所得も増えるダブルループを回します。

H-Marketモデルは経済的な格差の問題が解決される市場モデルの新しい理論で、リクエストランド(ランド)の基盤です。ランドは、リクエストと地図を中心にしたネット上のマーケットで、売買を通じて自然に格差が縮小して地域の経済が活発になることを目指しています。また、AIによって販売に関連する仕事が失われる時代において、地域にまともな(Decent)所得が得られる雇用を創出するすることも大切な目標です。

これから読み進める前に、ウェブアプリを試してみて、Webサイトで買い方を見ておいてください。

「モデル」というのは、理論を組み立てる時の模型のようなもので、「安い」と書いてあるのは、実際の買い物では安いことも高いこともあるが、平均的には安くなるだろうという予測を表しています。長期的には販売者は付加価値を増やすために価格を上げる必要があります。

本モデルは構築中の仮説の段階で、理論の深化と社会での検証が必要です。問題点、ご質問、ご批判がありましたら、まず私にメールでお知らせ頂きますようにお願いします。

ITによる「べき乗則」が生活に入り込み、給料を下げている

多くの国で中小企業が企業数の大半を占めていて、給料を上げる余力がありません。 例えば、日本では企業数の99%は中小企業で、売上高5千万円以下の中小企業は平均してほぼ赤字です

中小企業の付加価値と利益
図1 中小企業の売り上げ高別の付加価値と利益(中小企業実態基本調査2019)

必要なのは、(ほとんどの読者が属している)中小企業の売上をアップする仕組みです。中小企業の売上を上げれば、給料が増えて購買力が上がるので、経済全体が成長します。中流層が分厚くなり、みんなの給料も国や自治体の税収も増えます。教育や支援が必要な人のための財源が得られます。

Googleのクリック率
図2 Google検索のクリック率 (Advanced Web ranking)

さて、私たちは、家の近くで買える食品や日常品以外の、ほぼ全ての買い物で、まず検索をして製品やお店を探しますね。

ネットショップや検索システムは、価格、レビューの数や評価点数の順で結果を表示します。システムの性能上、データベースに入れてある順序で表示せざるを得ないので、何らかのランキング順になってしまいます。

上の図2はGoogle検索の結果のページの20位までのクリック率です。各社のクリック率を合計すると100%になります(さらに下位の分は今は無視することにします)。直感と違って極端な右下がりで、直線ではありません。

購入者(購入を希望する人)は、検索結果、つまりランキングの上位から順に調査をします。7位以下は3%未満ですから、ほとんどの人が6位までの間で調べていることがわかります。調査に使える時間は限られているためです。

評価やレビュー数の人気ランキングにおいて上位の販売者や製品には注文が集中するので、ブランド力がついて高く売ることができます。利益をSEO、YouTube動画、ソーシャルメディアに再投資して検索順位や評価点数を上げるので、売上は複利で増えます。

また、ネットショップの「おすすめ」はAIベクトル検索と販売実績やレーティングによるスコアリングを組み合わせたレコメンドなので、他のユーザーが多く購入した商品を勧めますし、ChatGPTのような大規模言語モデル(AI)による提案はネット上で多く言われていることやランキングサイトを参照して回答を返す傾向があるために、ランキング上位がさらに有利になります。

下位は、たとえ良い製品やサービスを用意しても、見てももらえないので売れません。安くするしかなく、従業員の人件費を削って値下げ競争をするデフレの悪循環です。

強いものはより強く、弱いものはより弱く。私たちはランキング地獄で死につつあります。

このグラフのような構造を「べき乗則」といい、ざまざまな社会現象や自然現象で見られます。80対20の法則もそのひとつです。このようなランキングを作って下位に広告を販売するビジネスが大いに繁盛しています。

H-Marketモデルの買い方と販売の流れ

べき乗則に束縛されないために、ランドにはランキングがありません。自分で調べなくても、販売者が目的に合う物を提案してくれます。

例として、購入者アリスと販売者ボブの間の売買で説明します。ボブはよくある平均的な中小企業の塗装工事店の営業職です。

購入者アリスがリクエストに、たとえば、「自宅の外壁の塗装工事をお願い。3社と相談がしたい」と書けば、3社までの塗装工事店(販売者)が目的に合う物をいろいろと提案してくれます。相談するお店の数は1~4から選びます。典型的には3です。

提案から気に入ったものを選んで購入、またはパス。とても簡単です。車を買う場合でも、ピアノの先生を探す場合でも同様です。

販売者ボブはリクエストを読んで、販売をしたい場合はエントリーをします。その際に、任意の(自分で決める)エントリー手数料を払います。ゼロ円もOKです。リクエストランド(ランド)は販売者のエントリー手数料に応じた確率で、指定された3社までの販売者を選択します。ボブは、選択されたら、アリスに合う提案をして販売します。

販売者の選択でもう少し詳しく説明します。

今までよりも安く買える

H-Marketの価格決定モデル
図3 H-Marketの価格決定モデル

上の図3の横軸は20番目までの販売者を並べたものです。上のグラフは検索クリック率と選択率、下のグラフは販売価格です。人気ランキング上位の販売者にブランド力がつく商品では、上位は高く、下位は安い、右下がりの曲線です。

例えば、人と同じものを買えば安心だと思っていた購入者アリスは、かつてならばランキングの上位から高い価格、例えば40万円で買ったでしょう。今回は、3社の提案のうち、平均的な販売者のボブが勧めてくれた商品が「自分の目的に合う」ことがわかったので、もっと安い価格、例えば35万円で買うことができました。

実際の例としてボディソープでは、テレビ広告が多くブランド力のあるビオレUは1リットルあたり721円で、知名度の低いミルキィは375円と大きな開きがあります(Amazon)。広告費が少ない非ブランド製品であっても、十分な品質であることは多いです。

個別には高いことも安いこともありますが、一般的な傾向として、このように検索結果や人気ランキングの上位から選ぶよりも購入価格は下がります。

多くの販売者の給料は上がり、経済は成長する

アリスが従来通りランキングで買ったとすると、平均的な販売者ボブのランキング順位は10位なので、アリスからクリックしてもらえる可能性は1.01%。販売の可能性も1%程度でしょう。

ランドの場合、20の販売者が同じ手数料でエントリーしたとすると、20社から同じ確率で3社を選択しますから、15%の可能性で提案をすることができます。提案の可能性は15倍アップです。

そして、ボブは15%の3分の1の確率、つまり5%で販売ができます。販売可能性は1%から5%へ、5倍増えました。

ここで、買う人は今までより安く買えるのに、多くの販売者は同じ価格のままでも売上が増える、ウィン・ウィンの現象が起きています。

販売によって付加価値が増えれば生産性が上がります。賃金の水準は生産性に沿って変わるので、生産性が上がれば給料が増えます。所得の少なかった中小企業で働く人の給料が増えると、今まで買えなかったものが買えるようになり、増えた給料を使います。それは別の販売者の売り上げになり、別の人の給料になります。このようにして消費が増え、雇用が増える好循環が発生します。これは正の供給ショックと呼ばれます。このような繰り返しの効果は中小企業の方が大きいと言えます。これがページ最上部の図の中の小さなループです。

さらに、購入者がランドマップの自分の地域にリクエストを置いて、近くのお店から買うことができれば、地域で効率よくお金が回ります。

では、ランキング上位の会社は損をするのでしょうか?

図1の中小企業は右の売上クラスにシフトして、働く人の所得が増えます。すると、より高い商品を買うことができる所得層も増えて検索ランキングの上位のブランドから買える人が増えます。ランキング上位のブランド企業にとって、顧客の層そのものをぶ厚くすることこそが利益を増やすための最も本質的な戦略です。それがページ最上部の図の大きなループです。中小企業の給料をアップする小さなループを回して、大企業を含む大きなループを回す、2重のループをぐるぐると回すことがリクエストランドの目標です。

数字も見てみましょう。図3で、10社がエントリーするなら1社の販売確率は10%です。3位の販売者まではクリック率10%以下なので利得があります。もっと上位でも、高額な広告費を使ったりSNSやSEOに多くの労力を投入して上位を維持している場合、広告費をランドの手数料に移せば利益が増える可能性があります。

一人あたりの売上高に占める付加価値
図4 一人あたりの売上高に占める付加価値(中小企業実態基本調査2019)

さて、図1に示したように、売上高が大きい企業ほど、一人当たりの付加価値(人件費などを差し引く前の粗利)も大きくなります。ところが、図4のように、一人あたりの売上高に占める付加価値をみると、売上高が大きい企業ほど低くなってしまうのです。会社の規模が大きいほど、会議に時間を費やしたり、立派な本社を構えているためでしょうか。労働者一人当たりで見ると、同じ価格の商品の販売で得られる付加価値は、上位の販売者(大きい企業)より下位(小さい企業)の方が大きいため、下位が売ればさらに国のGDP(付加価値の総計)は増えて経済は成長します。

市場として効率が良く、コストが小さい

販売者の専門知識を活かした提案や相談といった人的営業にはコストがかかるため、提案のコストの範囲ではAIに対抗することは難しいでしょう。雇用を奪われないためには、顧客の満足度を含めたトータルでコスト効率が上回わる必要があります。

そもそも、AIで提案をするには、まず広告を出してショップに集客をする必要があります。

しかし、私と同様に動画サイトの広告にうんざりしている人は多いと思います。広告は興味を持たない視聴者にも表示されるので、とても非効率です。販売者にとってネット広告を出す料金は驚くほど高いですが、止めれば売上が下がってしまいます。

本モデルは「欲しい」と考えてリクエストを書いた人だけ、かつ、あなたがエントリーをしたいと考えたリクエストにのみ営業が可能であるため費用対効果が高いと言えます。人間関係ができるとリピート購入も増えます。リクエストランドではチャットやバンバンボード、ビデオ通話(録画を活用)で多数の購入者に同時に接客を行うことが可能です。従来の広告集客型市場と比較して取引コストが低く効率が良いと言えます。

商品の提案や相談の本質は、購入動機の背景に顧客が抱える問題(Things to do)を勘案して総合的に問題解決を支援することで、AIにはできない人間ならではの能力を必要とします。 例えばボブの場合、アリスの家の側に植えられた樹木から樹液が飛んで家を汚していることに気付けば、樹木を大きく剪定することを助言するでしょう。

いくらAI技術が発達しても、人の感性や共感力は持ちえません。顔が見えて安心、共感、センスの良い感性といった人的な要素を好む人も多いでしょう。

このように販売のコストを低減し、顧客の問題解決に貢献すれば、全ての業種は無理でも、コスト効率が上回わりAIに雇用が奪われない業種を増やすことはできるでしょう。

リクエストランドが大きな利益を上げると類似の市場が現れます。購入者が複数の市場でリクエストを書くと数社に限定する仕組みが壊れてしまい、格差の解消ができなくなります。ですから、私たちは利益ではなく、社会の課題の解決を追求します。

店によって小売り価格が違う場合

家電製品や消費者向けの製品のように製造する会社と販売する会社が分かれている場合、同じ製品を多くの小売店が違う価格で売っています。

消費者向け工業製品の価格モデル
図5 家電製品の価格モデル

洗濯機を例にとると、高機能な洗濯機は図5の左側にあり価格は高く、機能が少ない機種は図5の右側、安価な価格帯に位置します。図5の1番目の機種に複数の横線があるのは、複数の販売店が異なる価格で販売している様子を表しています。どこで買っても同じ品質が保証されています。

あなたが洗濯機の購入をリクエストすると、検索順位の下位にはあるがあなたの用途には十分で安価な製品を提案してもらうかもしれません。しかし、価格比較サイトでその製品の型番を検索すれば、提案してくれた販売者Cよりも安く売っている販売者Dが見つかる可能性があります。販売者Cがあなたの話を聞いて、あなたに合う提案をするには人件費がかかるためです。

そこで、購入者はジレンマを抱えます。お金を取るか、義理を取るか。

リクエストには購入者のこれまでのリクエストの数と購入の数の数値(カウンター)が記載されます。購入者がランドで買うと、その後のリクエスト数のカウンターと購入数のカウンターが両方増えます。ランドで買わなければ購入数のカウンターは増えません。

販売者としては、買うことが多い人には丁寧な接客をして、相談だけして買わないことが多い人にはエントリーをしないでしょう。販売者Cで買えば、多少高くはなっても将来の便利さが得られます。Dで買えば安く買えます。選択は自分自身です。

価格比較サイトの最低価格で家電を買いたい場合は、最初からバンバンボードを使って自分で調べるほうがいいです。バンバンボードもやはりランキング下位を含めて良品を見つけるための仕組みです。

最低価格より安い価格で買うには、リクエストに希望価格を具体的に書きます。

販売者がエントリーをしたくなるのは、例えば、複数の製品をまとめて買ってもらえる場合、月末で販売目標を達成したい場合、型落ちの不良在庫を抱える場合などです。エントリーがない場合、リクエスト数のカウンターは増えませんから、上記のペナルティの心配はありません。

買ったものが用途に合わなくて、フリマで売って買い直す羽目になることが多い場合も、リクエストでアドバイスをもらって買った方が失敗を防げて、結局は安く済むでしょう。

リクエスト・シフトによる地域の活性化とCO2排出量の削減

図6 リクエスト・シフトで地域に雇用を作る
スペースシフト

都市にはたくさん人が住み、たくさんの需要があります。需要を満たすために仕事はありますが、高い、狭い、環境が悪いという生活上の不満があります。世界の多くの大都市ではスラム化が進んで、貧困率と犯罪率が増加しています。

田舎は快適ですが雇用が少なく、若者が都市に出ていってしまうことが大きな課題です。

リクエスト・シフトとは、リクエストを地図に置くときに、各人が都市の周辺に向かって少しずらしてリクエストを置くことです。

例えば図6のように、都市の東側に住む人は、リクエストを置く時にもう少し東寄りに置くようにします。それだけです。

もっと東に住んでいる人はリクエストをもっと東に置きます。バケツリレーのように南の人はより南に、北の人はより北にリクエストを置きます。

都市にある大量の需要が周辺部に滲み出すので、周辺部に仕事の機会が移ります。地域での売上が増えれば、雇用が増え人口が増えます。人口が増えれば需要が増えて、周辺部は周辺部自身の需要を中心にして生活ができるようになっていきます。

周辺部で仕事を得て働く人は快適な環境で働けるようになります。広い家、安い食料、短い通勤時間、緑の多い街…

都市の過剰な人口集中は緩和されて、貧困と犯罪率は下がります。

更に、配送が必要な購入や、出張が必要な仕事の依頼ではCO2の排出も減ります。隣接する地域の販売者に依頼するためです。近くの販売者なので、早く来てくれます。販売者は、移動のための時間と人件費を節約でき、移動のためのCO2の排出は少なくなります。

タイムシフト

もうひとつのリクエスト・シフトは、タイムシフトです。

普通、お店はどんなチャンスも逃したくないので、忙しい時に合わせて社員や機材を用意しています。お客さんが来ないときは、貴重な資源が活用されていません。客待ちをしているスタッフは、人生を無駄に過ごしていると感じてしまいます。

そこで、購入者は雨の日のようにお店に時間がある時にリクエストを書けば、お店は相談の時間をより多くとってもらえます。要はピーク時間を避けることです。お店は、コストが下がります。購入者と販売者の双方にメリットがあります。

販売者の選択

リクエスト(需要)は共有地にある有限の資源ですから、誰かが取りすぎるとすぐに枯渇します(共有地の悲劇)。販売者がリクエストを取る際にコスト(エントリー手数料)がかかるようにして資源の枯渇を防ぎ、ランドの運営費にあてます。

重み付き確率による第2の選択
図7 重み付き確率による第2の選択

最も高い手数料を支払う販売者を選択する方法だと、特定の販売者に利益が偏るようになり勝者の総取りになってしまいます。これが自由市場のスタンダードで、格差は広がります。

ランドではエントリー手数料に応じた重みつき確率に、冪乗則を補正する係数を加味して競争と平等のバランスを調整します。ダーツに例えると、図7のように販売者ごとに異なる面積の的に3本のダーツを投げることに似ています。当たらなかった時には手数料を支払う必要はありません。有料のエントリーは無料のエントリーに優先します。

これを何回も繰り返すと、エントリー手数料が少ない販売者でも応分の販売機会を得ることができます。格差になりにくい構造であり、初めてお店を始める若い夫婦がよいスタートを切れる仕組みです。

販売者に需要を完全に公平に分散する方が望ましく、完全に同じ確率にすべきではないか? あるいは大きい企業はいつも多くの手数料を払うから有利ではないか?と思われるかもしれません。

一般に、販売者は販売のためには広告が必要で、広告費をより多く払えば売り上げが増えることを知っています。エントリー手数料は、販売の意欲を持つか、その販売者が需要に対してどれくらい最適な販売ができるかによって決まり、H-Marketモデルはそれを購入者の課題への適合の度合いを示す信号であると捉えます。同じ確率にすると、収入機会の分散は完全ですが、販売意欲の少ない人も労せずして販売機会を得ることになってしまいます。真剣味のない販売者、、、どうでしょうか? 重み付き乱数だとどの販売者にも収入のチャンスがありながら販売の意欲も必要なので、公平と競争のバランスがあります。

例えば塗装工事を例にとると、塗装工事業者には得手不得手があります。家庭の塗装の修理を得意とする業者もあれば、大規模なビル建設や公共工事で塗装工事を行なっている業者もあります。大きな企業は大きな工事で利益が出る体制を構築しているので、小さな工事では利益が出ません。小さな業者は小回りがきいて、小さな工事を低コストで行うことに特化しています。あらゆる塗装工事の需要に対して大きな業者がいつも高いエントリー手数料を提示するということにはならないのです。また、高いエントリー費を払うと販売価格が高くなるので、見積り比較では不利になります。

物価とインフレ率の調整

H-Marketモデルは3つの選択の連鎖です。

  • 第1の選択: レシーバーの条件によるマッチング (選択数α)
  • 第2の選択: 手数料による営業権のオークション (選択数β)
  • 第3の選択: 販売価格でのオークション (選択数1)

競争性の高い市場において企業の経営者は、生産性の向上を賃上げではなく値下げに投じて市場シェアの拡大や維持を図る動機を持ちます。デフレ・ビジネスモデルです。消費者は喜びますが、悪性のデフレーションにつながり、長期的に賃金水準が下がります。

ゼロ金利政策と財政政策で大量の貨幣が供給されて、その恩恵を被る一部の人とそれ以外の経済格差が広がりました。この古典的な経済格差も解決しておきましょう。

私は日本が長期間のデフレーションで苦しんでいた時にH-Marketモデルを作ったので、H-Marketモデルは物価を直接操作するインフレ率調整の能力を有します。政策金利の操作による間接的なインフレ率の調整を、副作用なしで補完できるかもしれません。

例えば、ある購入者が一つのリクエストを投入した時に、30の販売者が設定しておいたレシーバーがそれぞれ条件を満たしたとして、システムがそのうちの20の販売者が第1の選択で選択されてそのリクエストを受信するとします。この第1の選択でリクエストを受け取る販売者の数を一般にαとします(今の例では20)。

20の販売者がリクエストを読んで、そのうち10の販売者がエントリーをしたとして、システムが第2の選択で確率的に選択する販売者の数をβとします。βは1から上限値(6)の間で購入者が選ぶのですが、システムは上限値を増減することで平均のβを変えられるとします。

わかりやすい例として、βを1にすれば、販売者は願望通りの見積もりを出すことができて販売価格は上がります。βを大きくすると、販売価格は下がります。例えば、βを10にすれば10の販売者が見積価格の競争をすることになり、価格は下がります。βの調整を多くの物品で行えば、物価を変えることができます。

適切なβは望ましいインフレ率に一致する値で、販売価格を観察しながらフィードバック・ループによってβを変化させることができます。ただしβを下げすぎると購入者の選択の自由が制限されます。

望ましいインフレ率は一般的には前年同月比で1%か2%くらいと言われていて、中央銀行が金利を操作してインフレ率を達成しようと努力をしています。ところが、中央銀行のインフレ率の調整にはゼロ金利の下限値(流動性の罠)があり、デフレ状態からの脱出には過大な財政政策で人々のインフレ期待を待つといった効果の薄い手段を取らざるを得ませんでした。

P. Krugman, "Apologizing to Japan"

実際のところ、私が感じていた世間の雰囲気としては、金融政策も財政政策も、老後の生活の不安を増していたし、増えつづける国の借金に若者は未来に希望を持てなくなっていったと思います。

エントリー手数料の額はαとβによって変わります。αを大きくすれば販売者間の競争によって手数料の額は上がり、小さくすれば手数料の額は下がります。βを小さくすれば手数料は下がり、βを大きくすれば手数料は上がります。これによって、手数料の高騰を防ぎ、リクエストランドの収益を過大にならない水準に保つことが可能です。

リクエストランドが高い利益を上げると、似た市場が出現します。購入者が複数の市場にリクエストを投入するようになれば、βによって価格の叩き合いやデフレーションを防ぐ効果はなくなります。ですから、リクエストランドは、上記のαとβによって利益を最小化するアルゴリズムで動作します。

次の時代に向けて

ケインズは一般理論で金利の低下による「家賃生活者と無能な投資家の安楽死」を予言しました。

しかし、実際には、ケインズ政策によって供給される大量の貨幣によって、多くの人が危機から救われた反面、投資家はますます裕福になり格差がとめどなく広がった100年でした。

間接的である金利の操作に対して、H-Marketモデルのαとβはより直接的な価格の操作であり、中央銀行によるインフレ率の調整を補完することができるでしょう。H-Marketモデルのダブルループによって、低所得層は中間層に移行してまともな生活が楽しめるようになり、有効需要が増えて投資家も大きな恩恵を被るでしょう。競争が緩和して、誰もがゆっくりした気持ちで眠れるようになるでしょう。

ここに示した新しい理論は仮説の段階ですが、単なる提案でも机上の空論でもありません。誰でも実際に使うことができるシステムとして、みなさんの目の前にあります。たくさんの人が使えば格差の解消が始まります。それが実現するには、みなさんの熱心な協力が必要です。リクエストランドはみなさんの人生と地域の繁栄をサポートするもので、主役はみなさん自身です。

数年前に弟を亡くしました。あってはいけないことでした。格差と過大な競争が原因だと思っています。

昨日の夜、弟はハッピーを連れて会いにきてくれました。おう、ハッピーと一緒だったか。暗い、雨の降る夜の夢でした。

私(61歳)は、人生をかけてこの問題を解決したいと思い、全力疾走で開発を進めています。しかし、残り時間が足りないかもしれません。みなさんと、この開発を進めている若い諸君がこれを引き継いでくれて、次の時代にみなさんの一人一人に安心(Peace of mind)と情熱(Passion)をもたらすことを心から願っています。